2006年12月

私はバベルの図書館を実現する方法を思いついた。

思いついたきっかけは正岡子規 ( だったと思う ) の言葉である。
これは確か柄谷行人の『日本近代文学の起源』で読んだので、孫引きの上、本が見つからないのでうろおぼえで引用する。
正岡子規は「短歌や俳句は文字の組合せが有限なので明治のうちにすべてのパターンが書かれ尽くされるだろう」といった主旨のことを言っていたのだ。この発言はもちろんおかしい。より文字数が少ない俳句 ( 17 字 ) にしても単純計算で、46 の 17 乗* という相当な数の組み合わせが存在する。今計算したところ存在しうる俳句は、18487710785295216663082172416 首もあるらしい。この大部分は無意味な文字列であり、とても俳句とは呼べないわけだが。少なくとも明治のうちに短歌や俳句が尽き果てるようなことはなかった。

* 濁音、半濁音、小さな文字は除いて 46 字とした。


正岡子規の予言があたらなかったことはどうでもいい。最近私はこの言葉を思い出し、この「存在しうる俳句(または短歌)の集合」が簡易的なバベルの図書館であることに気がついた。
「バベルの図書館」とはボルヘスという作家の書いた同名の小説に登場する図書館である。この短編が収録されている『伝奇集』も見つからないので、Wikipedia に頼ることにする。
Wikipedia によると、バベルの図書館には以下のような本がある。

  • 全て同じ大きさの本であり、一冊410ページで構成される。さらにどの本も1ページに40行、1行に80文字という構成である。また本の大半は意味のない文字の羅列である。又、題名が内容と一致しないことが殆どである。
  • 全ての本は22文字のアルファベット(小文字)と文字の区切り(空白)、コンマ、ピリオドの25文字しか使われていない。 同じ本は二冊とない。

それゆえ司書たちはこの図書館は、この25文字で表現可能な全ての組合せを納めていると考えている。


バベルの図書館 - Wikipedia


要するにバベルの図書館とは、「すべての本が存在する図書館」である。そこには世界の真理を書いた本も、その本の場所を書いた本も、さらにその本の場所を書いた本も存在する、と言われる。

しかし、バベルの図書館にとって、1 冊 410 ページという文字数に本質的な意味があるわけではない。1 冊 1 冊の文字数が少なかったとしても必ずその本の続編が図書館のどこかに見つかるのだから、文字数はもっと少なくてもいいはずだ。そればかりではない。1 冊あたりの文字数をへらすことで、図書館の広さをだいぶ節約することができる。
現在は1ページに40×80=3200。3200×410=1312000 なので、一冊131万2千字となっている。従って図書館には「25の131万2千乗」冊の本が存在する。仮に本の厚さを 2 分の 1 にすればこれを「25の65万6乗」冊まで少なくすることができる。
この原理を押し進めていくことによってバベルの図書館を容易に実現することができる。
以下がこの原理によって実現したバベルの図書館である。

  • a
  • b
  • c
  • d
  • e
  • f
  • g
  • h
  • i
  • j
  • k
  • l
  • m
  • n
  • o
  • p
  • q
  • r
  • s
  • t
  • u
  • v
  • w
  • x
  • y
  • z
  • (空白)
  • ,
  • .

1 冊の長さを 1 字とすることによってブログのエントリに見事収まるまでに圧縮することができた。
ところで、ここにはまだ無駄がある。これらの 25 字は 2 つの符号の組合せによって表現できる。2 の 5 乗は 32 なので、 "1"、"0" の 2 つの文字を 5 つ並べれば、25字を表現するするのに足りる(たとえば "a" を "00001" とし、"b" を "00010" とし、 "c" を ... と以下同様に繰り返す)。
よってバベルの図書館は、以下のもので十分である。

  • 1
  • 0

実際、これを読んでいる人の PC 上に表現されたバベルの図書館も本来はサーバー上に保存された 2 つの符号の組合せである。バベルの図書館を実現するためには 1 ビットの情報で足りる。

言い換えれば、『バベルの図書館』が教えてくれたのは次のようなことであった。どんな素晴らしい小説であれ、論文であれ、「記号の組合せで表現できるすべてのものは記号の組合せで表現することができる」。この原理がなければ万能機械だって動かないのであった。

少し前にM川に、「最近は哲学系の虚構理論を勉強しているよ」と言った。「それはどういうものか?」と問われたので、「たとえばこのようなことを考えるのだ」と答えた。
以前は「架空の対象について命題の真偽を問うことはできない」と考えられていた。たとえば「ユニコーンについては何を言っても真実とも虚偽とも判定しがたい」云々。しかしこれは厳密に言えば明らかにおかしい。たとえばシャーロック・ホームズについて「明らかに真なる命題」や「明らかに偽である命題」が存在する。前者の例は「シャーロック・ホームズは少なくとも1000歳以下である」「シャーロック・ホームズはコナン・ドイルによって創造されたキャラクターである」。後者の例は「小説『ホームズシリーズ』においてシャーロック・ホームズには9本の足がある」など。
しかもシャーロック・ホームズに関する真なる命題は、テキストに記載があるともかぎらない。たとえばシャーロック・ホームズの物語に「日本の四国」に関する記述は見あたらないが、その世界に日本が存在する以上、「四国に相当する島も存在する」と考えるのが妥当であろう云々(本当に「四国」に関する記述がないかどうかは確認していない)。

M川曰く、「ホームズはテキスト上にしか存在しないので、ホームズについて何とでも新たな記述を増やせるのではないか」。
しかし例えば私が『シャーロック・ホームズは9本足だ』と書いても、「あの」シャーロック・ホームズが9本足だったことにはならないだろう。
その時は以上の主旨だけを答えたが、同時にふと思いついたアイデアがあった。


以上は長い前置きである。
任意にホームズに関する記述を増やすことはできない。そもそもそんなことはドイル自身にもできないのである。シャーロック・ホームズについて何でも好きなことを言えるのなら、ドイルは一度死んだはずのホームズを生き返らせる必要もなかっただろう。
しかしその時考えたのは贋作、パロディ、二次創作のことだった。
ホームズものには、ドイル以外による無数の二次創作的シリーズが存在する。それらの小説における記述が「ホームズに関する事実」として認められることはあるだろうか。
これは一見ありえないように思える。他の作家によるホームズものは「Xによるホームズもの」としてドイルの正典とは別個の世界として扱われがちだ。他者がコナン・ドイルにかわって「ホームズに関する記述」を増やすことはむずかしいのである。

しかし、小説以外のフィクション作品に目を向ければ話は変わってくる。映画やドラマやアニメなど、元々複数の人間によって作成される作品の場合、同じシリーズであっても、スタッフは完全に別であるということもある。ここで以下のような架空の状況を想定してみよう。

20xx年、とあるアニメ制作会社は「○○ガンダムなんかガンダムじゃない」という一部制作スタッフの反発により、「制作チーム1」と「制作チーム2」の2つに分裂した。それぞれのチームは別個にスポンサーを見つけ、それぞれ「1ガンダム」および「2ガンダム」という同シリーズに属する別々の作品を制作した。「1ガンダム」および「2ガンダム」はともに「ガンダムシリーズ」に属する作品であるが、「1ガンダム」と「2ガンダム」には明らかに矛盾する記述が存在する(それぞれ同じ時代を描くが、前者の系列ではあるキャラクターが生きており、後者の系列では死んでいる)。
この時、どちらのテキストを「ガンダム世界に関する正当な記述」とすべきだろうか?

これは決定不可能な状況であると考えられる。喩えで言えば一つの国家に二つの政府、二つの法が存在する状態に似ている。
たとえば、以下のような事例。
「選挙において過半数の支持により、共産主義政権が誕生した。しかし反発した旧来の与党が軍部と結託してクーデターを勃発させた。クーデターは成功し、後者が実効的に政権をにぎり、独自の法を発布。戦いに敗れた共産主義政権は潜伏したものの、やはり独自の法を発布した。この時、ひとつの国家に二つの政体が誕生する。以上の状況において二つの政府・二つの法のどちらが正統なものか?」

もちろん明らかにどちらかが正統なスタッフであり、片方は二次創作にすぎないというように決定できるケースもあるだろう。しかし、「1チームにはトミノヨシユキという本来の原作者がいるが、スタッフのほとんどはガンダムとはまったく関係ない」「2チームの大部分は元々ガンダムに関わっていたスタッフである」という場合など、決定が困難に陥る場合もある。
似たようなことは現実にもある。「小説版とアニメ版で話が違う」とか。あるいはこういった虚構世界の問題から「黒歴史をどう考えるか?」。
この辺をきちんと考えてみれば理論的には色々おもしろいような気もする。実際のところ、虚構論は文学に限定しない方がおもしろいトピックが出てくる。
たとえば、「虚構世界は複数の可能世界を含むのか、それともただひとつの世界からなるのか」という議論がある。この問題をストーリーと選択肢が存在するタイプのゲームに適用するとどうなるだろう。これらのゲームには明らかに複数の可能世界が含まれている。この時ユーザーが享受しているのは、これらの世界すべてを含むゲームの全体系なのだろうか? それともそれらのうちの個々の世界を個々の作品として楽しむのだろうか?

テスト投稿第一回。

二行目。


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テストテストテスト。本文本文本文*1本文本文本文。

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  • *1: 脚注脚注脚注
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