講談社現代新書(講談社)、1988
■あらすじ
ホームズは同時代(19世紀後半)の論理学と科学論をよく知っており、自らの推理法が確率論的帰納法に基づくものであることを自覚していた。
■感想
名著であった。
ホームズと同時代の科学と言えば、ギンズブルクの徴候学的パラダイムというのが有名だが、ホームズをダーウィンの同時代人と見る内井説の方が説得的であると思った。*
* 『神話・寓意・徴候』。ちなみに私は読んでない。内田隆三『探偵小説の社会学』は読んだが、これを参照していた。
「不可能なものを除外していって残ったものが、いかにありそうもなくても(however improbable)真相なんだ」
というのは非常に有名な台詞だが、逆に考えればこれは、不可能なものを除外するまでは、「ありそうにない仮説」を除外しておいてよいということだ。
この「ありそうにないimprobable」の中に、確率論の響きを聞き取れるというのはおもしろい。
ひとつ疑問なのは、内井はホームズが、同時代の論理学者ジェボンズやデ・モーガンと同様に、確率論的な方法を「用いた」のだという。しかし、ありそうにない仮説を避けておくという確率論的な操作自体は、誰もが推論の際にやっていることではないだろうか。ホームズに統計学的発想があったにしろ、実際に統計を用いたわけではないのだから、むしろホームズはそのような推論の様式に「自覚的だった」というべきではないだろうか。
いずれにせよ確率論や19世紀の科学論に関心があれば、読んで損はない本だと思われる。
あと、デ・モーガンという人は知らないと思っていたが、よく考えるとこれは「ド・モルガン」先生のことだった。
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