■ コンピューターの中の人
山形 浩生 (著)
山形氏のこの本には、「パソコンにつよくなるためにはコンピューターのきもちを知らねばならない」「コンピューターのきもちとは何か。孤独である」と書いてあった。
小さな部屋にこもって、ひたすらテープの上のデータを動かしつづけるチューリングマシンのきもち、それがコンピューターの感じる孤独である。そしてコンピューターオタクがコンピューターのきもちを理解できるのは、他人から理解されない孤独を自分も痛いほどよく知っているからだ、という主旨のことが書いてあった。
確かにまわりを見渡しても、コンピューターにつよい人は孤独の悲しみをよく知っているように思う(逆はなりたたないけど)。なので「なるほどこれは突飛な説だが、確かに一理あるかもしれないなあ」とずっと思っている。少なくとも、なかなか印象的な説明ではあると思う。
この話を聞いたせいでわたしは、「コンピューターのなかの人ってどんな気持ちなのかなあ。そしてコンピューターのなかの人ってどんな人なのかなあ」とときどき考えてしまうようになった。
計算理論の問題などを解いていると、チューリングマシンを構成したり、チューリングマシンの動作を追いかけていく機会がままある。メモリ上のデータを動かす動作を紙の上で再現していると、だんだん自分がコンピューターのなかの人になったような気分になってくる。チューリングマシンだけではなく、Pentium の動作を紙の上に書いていく練習をすれば、勉強にもなるし、コンピューターのきもちもわかるし、よいかもしれない。情報教育なんて言って適当に市販のソフトを使わせても身にならないので、小中学生高校生にもチューリングマシンの動作をひたすら紙の上でシミュレートさせればいいと思う。
あとコンピューターのなかの人をイメージしようとすると、長門有希になる。次点で初音ミク。コンピューターオタクが好きなものというイメージと、暗い箱のなかでじっと待っているというイメージ、コンピューターに近い存在というイメージがあるからだと思う。
どの曲だったか忘れたが、初音ミクの曲で、「暗い箱のなかであなたが歌をうたわせてくれるのをずっと待っている」と歌っているものがあった。長門有希も「つくられてから3年間わたしはずっとこうやってすごしてきた」と言っていたし、何しろ「情報統合思念体によってつくられた対有機生命体ヒューマノイドインターフェース」なのでこれはもうコンピューターのなかの人だと思う。一昔前で言うと、マルチとか、綾波(は違うか?)とか、ホシノルリとかがそういった象徴的なキャラクターだったかもしれない。
よくわからないけれど、長門や初音ミクが好きな人の一部は、そういった孤独と不条理に感情移入してしまうのではないだろうか。山形浩生の言うように、その人はまたコンピューターにも同じように感情移入するのかもしれない。
コンピューターのなかの人が女の子になってしまうのはキモいと言えばキモい話だが、オタクというのはそういうものかもしれないとも思う。そこで変にさわやかなイメージをあげるのも嘘だろう(例外的に、ミスタースポックは男でおっさんだが、ちょっとコンピューターのなかの人っぽい)。孤独というのは性的孤独でもあるかもしれない。
逆に言うと、孤独と不条理に耐える電子の妖精的男みたいなイメージがあれば、女性(の一部)もコンピューターに感情移入しやすいのかもしれないがよくわからない。アシモフのロボットシリーズと銀河帝国興亡史(ファウンデーションシリーズ)にでてくるダニール・オリヴォーはちょっとそれっぽい。ダニールは慇懃で、いつも丁寧で、頭がよくて、ロボット3原則に縛られているんだ。最後には、ロボット3原則を守ろうとするあまりに宇宙をすべる神のような存在になってしまうんだ。マイナーなのが残念だが、ロボットシリーズが映画化された暁にはきっと腐女子に大人気となり、腐女子はみんなパソコンが好きになるに違いないと思う。
■ 部屋は死んだ
何やら異臭がすると思ってたら、部屋の片隅から腐った卵がでてきた。腐った卵は本当に臭いもので、「ザ・刺激臭」みたいな異臭がして死にそうになった。この部屋はもう焼き払うか徹底的な掃除を遂行しないかぎり未来はない気がしてきた。
片付けをしようと思い、ときどき片付け啓蒙本を読んでいるのだが、世の片付け啓蒙本は、「片付けられないのはあなたのせいじゃない」とか「小さなことから1つずつ」みたいなぬるいことが書いてあってわたしには合わない。
なんていうかもっと、「片付けられないのは遺伝子の問題であり、片付けができない人間は劣等人種である」「30世紀には出生前診断が最高の精度に到達するので片付けられない人間の住む空間はない」「出生前診断の精度が高まるまでの間は、移行期であり、片付けられない人間は、片付けられる人々の世に住まわせてもらうために、機械か薬にたよらねばならない」「がんばっても無駄なので強行手段にでるしかない。今すぐ部屋を焼きはらうか本をすべて売れ」みたいな感じで煽られたい。
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