真理を追って

W.V. クワイン (著), 伊藤 春樹 (翻訳), 清塚 邦彦 (翻訳)

産業図書、1999


自然言語処理とか人工知能って、人間の思考や言語に対する考え方しだいで2種類のアプローチがあると思うんだ。

1つには人間の思考や言語などというものは、まったくのカオスであり、あたかも気象の動きみたいなものであって、気象の変動を予測するように統計的手法に頼るしかないというもの。

もう1つは人間の思考や言語は一定の合理的なルールや論理に貫かれているのだから、形式言語を使ってその動きをシミュレートすることも可能であるというもの。


人工無能などは前者かなあ。つきつめれば行動科学。一方対照的に、ボトムアップに人間の思考をエミュレートしようという人工知能的なアプローチがある。

たとえば文書を大量に読み込んで単語同士の関連性を抽出できたとしても、人間が実際に言葉を話すときには、おそらくそういう統計的リソースを利用しているわけではない。だから本当に人間の言葉の関連を、人間がやっているように扱おうと思ったら、たぶんそのやり方じゃダメなんだ。そこで、意味論的分析が大事ですね、でも自然言語とか思考のエミュレートってろくに成功例がないですね、みたいな話になると思う。ただし簡単な自然言語パーサとか論理的な推論を行なうプログラムはつくれるので、決して後者の例が存在しないわけではない*。

* ここではわりと大雑把に二派を分けているが、もっと間の立場、たとえば「人間の言語は論理的で形式的なルールに貫かれているけれど、計算機にはエミュレートできない」という可能性も無いわけではないだろう。


以上2つの方向性は、哲学上の対立でもあると思うんだ。

今回クワインを読んで、クワインは前者の側(人間ってほんとカオスじゃなー)の人なんだなと思った。

クワインと言えば、論理実証主義への批判、「おまえら論理学とか使っていい気になってるかもしれねえけど、おまえらの言う『意味』とか『命題』とかすっげえ曖昧でどうしようもない概念だから。数学ではこれでいいかもしれないけど、自然言語にそのまま適用するのはあきらめろ」といった批判で有名な人である*。

* 大意。ちなみに、そんな批判ができた理由は「クワインの方が数学が得意だったから」だとわたしは思う。


そういえば認識論の自然化なんて言葉もあったが、おそらくクワインの考えている人間行為の科学、言語の科学って俗に言う行動科学みたいなものに近いのかと思う。

これが主流かというとそんなことはなく、たとえばクワインの後輩にあたるデイヴィドソンはどちらかと言えば、自然言語のエミュレートみたいなプロジェクトにこだわった人である。

たとえばこんな引用文がある。

哲学者たちは長期にわたって、かれらが理論的に扱える文に日常語の文を対応させる工夫によって、理論を日常言語に適用するという難業に携わってきた。フレーゲの大いなる貢献は、「すべて」「ある」「いずれも」「おのおのの」「どれでもない」、および付随する代名詞に、それらのある使用の場合にはどのようにして対処しうるかを示したことであった。

それによって初めて、自然言語の重要な部分に対して形式的意味論を夢見ることが可能となったのである。この夢はタルスキの仕事によって鮮やかな仕方で現実となった。

フレーゲのそれとタルスキのそれと、これらふたつの素晴らしい業績の結果として、われわれは母国語の構造への深い洞察を獲得したのだ、という事実を見損なうとしたら、それは残念なことである。


デイヴィドソン『真理と解釈』邦訳p19

フレーゲとタルスキは単に数学理論をつくったのではなくて、それは英語という言語について教えてくれる研究でもあったのだということね。この後段の部分では言語学と哲学の結びつきを強調している。

わたしとしてはこういう「人間の思考とか言語ってシミュレートできるよ!」という方向に共感を覚えるが、クワインはえらく頭のよい人なのでクワインの言うことも真剣に受けとめたいと思っている。


いずれにせよ、最終的に必要なことは――どちらの理論を採用するにせよ――、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース長門有希を実装することである。

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