最近現代存在論の文献などを読んでいて、もやもやした気持ちを抱えることが多かったのだが、少し整理できたので書きとめておく。

存在論の人々は存在について語る。そしてしばしば、自分たちのやっていることは「概念分析」ではないと言う。つまり、人間の思考の様式や言語や認識について語っているわけではないと言う。

しかし哲学者は別に物理学者が宇宙について語るように、宇宙の経験的な事実を語ろうとしているわけではない。

じゃあ存在論は何をしているんだろう?

わたし自身も、それらの文献を読みながら、「確かにこれは、ある意味では、言語や認識や概念の話ではない。でも何が違うのかをうまく言いあらわせない!」というもやもやを感じていた。



以下のような言い回しを思い出そう。

「彼の頭の中には何があるんだろうね」と言われたとき、われわれは、

物理的な意味では、脳があるよ」と答えることがある。


饅頭の中には何があるか? 物理的な意味では、餡がある

腹の中には何があるか? 物理的な意味では、臓器がある

テレビの中には何があるか? 物理的な意味では、機械がある



わたしが気がついたのは、こういうニュアンスの「物理的」を「存在論的」に変えても違和感が無いということだ。

少なくとも、現代の(分析哲学的な)存在論は、「頭の中には脳がある」という意味での現実について語りはじめているように思える。


じゃあこの「物理的」ってどういう意味なのだろう。

必ずしも、自然法則や「物理学的」なもののことではないだろう。

言い換えを探ってみると、日本語の「物質」や英語の"material"はちょっとしっくりくる。

時間と空間、ひいてはリアリティの中に場所を占める「マテリアル」にかかわることを「物理的」と言っているような気もする。



たとえば現代存在論の文献には以下のような問題が登場する*。

  • 脳と胃を足したものもまた「物理的な物」なのか?
  • 「物理的な物」には、空間的な部分だけではなく、時間的な部分もあるのか? 言い換えれば、「過去の物」や「未来の物」も「物」の一部なのか?

* 下の『四次元主義の哲学』などを手に取ってみるとよくわかると思う。


また、存在論や現代形而上学の文献を読んでいると、よく「端的にsimpliciter」とか「生のbrute」とか「内在的intrinsic」という語彙がでてくる。ex.「物が端的に持つ性質」

こういう言い方をされると、「わかるんだけど、わかるんだけど、端的にって何だよ!」と言いたくなる。

セオドア・サイダーは、もう少し洗練された言い方を選んでいて、世界に備えつけられた「すべての対象から成る単一の対象領域D」について述べる(それでもまだよくわからないけど)*。

* 以下の本の序文を参照。


また、デイヴィド・ルイスは、"On the Plurality of Worlds"の序文に、自分がこの本で述べたのは「意味論的能力」や「真理の本質」や「二値性」や「知識の限界」にかかわるテーゼではなく、「ネス湖の怪物がいる」とか「CIAに共産主義者のスパイがいる」とか「フェルマーの予想の反例がある」とか「熾天使がいる」という種類の主張であると書いた**。ある意味では、これが一番わかりやすい。

** 意図的にうさんくさい例を選んでいるのだと思うが、「変に認識論的なテーゼと誤解されるくらいならうさんくさい主張と一緒にされた方がましだ」というルイスの姿勢は素敵だ。


これらの問題が何を意味するのかを考えるとき、またこれらの語彙が何を意味するのかを考えるとき、「物理的」という語のニュアンスを思い出すと少ししっくりくるなと思ったのだった。


四次元主義の哲学―持続と時間の存在論 (現代哲学への招待―Great Works)

セオドア・サイダー、中山康雄(訳), 小山虎(訳), 齋藤暢人(訳), 鈴木生郎(訳)

春秋社、2007

コメント(2)

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