- Robert Merrihew Adams (1979). Primitive Thisness and Primitive Identity. Journal of Philosophy 76 (1):5-26.
http://philpapers.org/rec/ADAPTA
最近更新をさぼりがちなので、読書メモでも残します。
クリプキ『名指しと必然性』の議論を「個のかけがえなさ」についての議論だと思っちゃってる人(柄谷行人とか)は、ちゃんとこっちも読もう、な古典論文。
もちろん関連はするけれど、クリプキの議論はあくまでも「名前」についての言語哲学的議論。「個体が何であるか」という形而上学的議論はそれとは別。で、それを論じているのがたとえばこの論文である。
このもの性というのは、質的な(ふつうの)性質に還元できない、個を個たらしめる性質のこと。
たとえば赤田のこのもの性は「赤田と同一である」という性質であり、赤田だけがこれを持っている(逆にいえばこれを持っているものが赤田である)。
■感想
個人的には、「このもの性」はあんまり認めたくないかな。
しかしAdamsが出してくる例はいろいろ大変なケースばかりで、いっそこのもの性を認めれば楽なのだろう、とは思う。
■ 目次
1. このもの性(thisness)とこれこれ性(suchness)
2. ライプニッツ的立場
3. 不可識別者の同一性に対する離散的議論
4. ほとんど識別不可能な双子の可能性からの議論
5. 原始的慣世界的同一性
6. このもの性と必然性
■ 要約
個体は質的な性質の集まりだっていう説もあるけど、やっぱり性質に還元不可能なこのもの性ってあるとAdamsは主張する。
このもの性を擁護する議論は基本的に2つ。
■ A 「離散的議論」と呼ばれるもの。
まったく同じ性質を持つけど、空間的・時間的に離れているものってあるよね。自分自身と空間的・時間的に離れることはできないから、同じ性質を持つ別のものたちが存在できる。
Max Blackによる不可識別者同一性の原理*に対する反例。
- Black 「宇宙に、大きさも形も同一な二つの鉄の球だけが浮いていると考えてみよう。こういう宇宙は少なくとも論理的には可能そうに見える。ところがこのとき、二つの鉄の球は元素も大きさも距離も形も同じで、まったく同じ性質を持つ。しかし二つの球は同じではない」
これについてはIan Hackingの批判があるらしい。
- Hacking「球が一つしかないけど空間が非ユークリッド的で歪んでる宇宙を考えよう。この宇宙では、空間が歪んでるので、球から少し離れると同じ球のところに戻る。二つ球だけがある宇宙と、一つの球だけがあって空間が歪んでる宇宙の区別はできない」
Hackingによる批判のポイントは、以下。
Black的な反例はいずれも「空間的・時間的に離れたところに、同じ性質を持つ複数のものがある」という形をとる。
ところが、このいずれの反例についても「時間や空間がゆがんでいて、実際にはものが1つしかない」という状況を想定できてしまう。
「だから、やっぱり同じ性質を持つ複数のものなんて無いんだよ」というのがHacking。
Adamsはそれに対し、Hackingの主張は常識的直観に反すると述べる。「いやーやっぱり2つの球がある宇宙と1つの球しかない宇宙は別でしょ。両者を性質の面で区別できないなら、性質以外に還元不可能なこのもの性があって、それによって両者を区別できると考えるべきでしょ」
- Ian Hacking (1975). The Identity of Indiscernibles. Journal of Philosophy 72 (9):249-256.
http://philpapers.org/rec/HACTIO
■ B 「ほとんど識別不可能な双子の可能性からの議論」と呼ばれるもの。
宇宙のすっごく離れたところに、この宇宙にそっくりな場所があって、そこに自分に似ているけど少し違った生物がいる可能性ってあるよね。少なくとも論理的に不可能ではないよね。
じゃあ少し違った生物を少しだけ変更させて、「自分とまったく一緒な生物」がいる可能性もあるよね。だって、「少しちがったらOK」で、「少しもちがわないならNG」って変じゃないか。少し違うコピーが可能なら、まったく同じコピーも可能でしょ。まったく同じコピーをどうやって区別する? このもの性によってでしょう。
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