形而上学レッスン―存在・時間・自由をめぐる哲学ガイド (現代哲学への招待Basics)


形而上学レッスン―存在・時間・自由をめぐる哲学ガイド (現代哲学への招待Basics)

Riddles of Existence: A Guided Tour of Metaphysics


Riddles of Existence: A Guided Tour of Metaphysics

論争ばかりしているのもどうかと思ったので本の紹介でも(いや、論争は論争でたのしいし有益ですよ)。

ついに、日本語で(比較的)平易に読める「(分析哲学的)形而上学の入門書」がでました。すばらしい!

売れてほしいので紹介しておきます。

これはこの分野に関心があれば(なくても関心のあるトピックがあれば)、必読ではないですかね。

以下のようなトピックについて、主流の説いくつかとそれを批判する論点が紹介されています。

日本語の最近の入門書などは、どの分野でも文献紹介がきちんとしてないものも多く非常に遺憾ですが、この本は文献紹介も各章ごとについています。興味のあるトピックがあれば、その章だけ読むこともできますし、各問題への入り口としても適切ではないでしょうか。

目次

  • 第1章 人の同一性
  • 第2章 宿命論
  • 第3章 時間
  • 第4章 神
  • 第5章 何かがあるのはどうしてか
  • 第6章 自由意志と決定論
  • 第7章 物体の構成
  • 第8章 普遍者
  • 第9章 必然性・可能性
  • 第10章 形而上学とは何か

まず、サイダーの担当した章はどれも啓発的で大変素晴しかったです。

「人の同一性」にしても「時間」にしても「自由意志と決定論」にしても、必ずひとつふたつくらいはよく知らない論点や目のさめる指摘があり、「おおーなるほどー」と思わされました。どのトピックについてもぐっと引き込まれるような書き方をしてくれているので、興味を持つきっかけとしても良いです。

コニーの章はやや癖があって、わかりにくい部分も見られましたが*、個人的にはなじみのない議論を紹介してくれており興味深かったです。特に神学的議論は知識が欠けているところなので、勉強になりました。

しょうもない話ですが、「神が存在するのでー」とかはじまると、わたしは「もうダメだ! 論理的な話が通じない!」と思考停止しがちなのですが、「神の存在」からはじまる議論に対しても、「いや、神が存在するとしても、これこれこういう理由で、必然性の定義には役立たない」みたいなロジカルな反論を提出するところはさすがアメリカの哲学者だなというところです。


* 特に、「これ日本語で書いてあるけど、きっとこういう論理式を想定しているのかなー」などといちいち想像しなければならないのが大変でした(二章など)。本の制約上式を入れたくないのはわかるのですが、ぎこちなく感じてしまう部分が多かったです。その点サイダーの「時間」の章などは、図の使い方がたくみでした。



以下、いくつかの章で扱われる問題と、(誰も知りたくないでしょうが)わたしの個人的な意見について触れます。

  • 第1章 人の同一性

文字通り、「人の同一性は何によって決まるのか」という問題です。

主として「魂説」と「時空的連続性説」「心理的連続性説」が検討されます。

そしてすべてを破壊する「分裂」の議論。大抵どんな基準をとっても、個人が二人に分裂するケースを考えることができてしまい、やっかいなことになります。

一番SF的な魅力のある章かもしれません。

個人的には、「人間の同一性は身体のみによって決まる」という説に若干魅力を感じるのですが、説得力があると思うのは「脳」と「心理」。分裂の議論に対しては、「人の同一性は数的同一性ではない」と答えるしかないのかな......という方に傾いています。これについては、パーフィットの説に従うと、倫理の方も大変なことになる...というのがもっと紹介されていると、うっかりパーフィットに賛成しがたくなって、緊張感が増すと思います。


  • 第3章 時間

「時間と空間は同じようなものであり、時間は空間と同じように広がっているのか? それとも空間と違って動いているのか?」という問題が議論されます。

時間と空間の対称性を丁寧に議論していて、たのしいです。

わたしは、「時間と空間は同じように広がっている」(B理論とか永遠主義・時点主義と呼ばれる立場)の方を支持します。


  • 第4章 神

「神は存在するか」を扱った章。神の存在に関する論証がいろいろ扱われます。

「第一原因による論証」「デザインに訴える論証」「存在論的論証」など、有名な議論がたくさんでてきます。

個人的には、「アンセルムスの存在論的論証」が好きです。

去年でしたか翻訳がでた『麗しのオルタンス』という小説に、このパロディの「理想の男性が存在することの証明」が出てくるのですが、これもすばらしかったですね。

「もしわたしの理想の男性が存在しないとすれば、彼は他の男より劣ることになってしまう。しかしわたしの理想の男性は他のどんな男性よりも素晴しいのだから、彼はきっと存在しているはず!」という感じ。


この議論のどこに問題があるかは中で紹介されています(ここはもう少し丁寧に論じてほしい気もしましたが)。

個人的には、受け入れている神の存在証明は特に無いですし、神の存在は信じていません。


  • 第6章 自由意志と決定論

「すべての出来事が物理的に決定されているとすれば、われわれには自由など無いと思われる。しかしわれわれは自分のことも他人のことも自由意志を持って行動しているかのように扱っている。なぜか?」という問題です。

古典的だけど、全然解決らしい解決の無いやっかいな問題です。

「人間はほんとは自由じゃない!(強い(ハードな)決定論)」

「人間は物理に支配されてなくてすごい自由(自由意志論)」

「その二つは両立する(弱い(ソフトな)決定論)」

などの立場が紹介されます。量子力学の非決定性を持ちだしてもダメだというのをきちんと論じているのは好感度高いです。

個人的には、両立説とソフトな決定論以外の道は無いと思っています(が、この道も大変ですね)。


  • 第7章 物体の構成

「物とその素材の関係」を問うた章。

たとえば、粘土でできた塑像について、「塑像と粘土の固まりは別のものなのか、同じものなのか?」という問題です。

この問題は、「身近なところに、きわめてやっかいな哲学的問題がある」というのの好例で、わたしは大好きです。

個人的には「粘土と塑像の固まりは別々に存在する」という解答は避けたいと思っており、「粘土と塑像の固まりは同じであるか部分を共有する」という方向に持っていきたいです。この論文の中で言えば四次元主義による解答を取りたいですね。


  • 第9章 必然性・可能性

「世界には「可能なものごと」「必然的なものごと」というものがあるように思われる。では、これはいったい何なのか?」という問題です。

本論文では、「自然法則」について、「規則性説」と「普遍者による必然化説」が論じられ、

「絶対的必然性」について、「可能世界説(様相実在論)」と「規約説」が論じられます。


ちなみに「可能世界説」というのは、「平行世界(みたいなもの)がたくさんあるのでそれによって可能性や必然性が決まる」というヤバい説です。デイヴィド・ルイスという天才が一人で提唱し、ほとんど誰も信じてないのに、いまだに決定的な反論が無いという大変な説です。わたしも反論が思いつかないので、体調が悪いときなど、ときどき信じそうになって我に返るということを繰り返しています。

なお、本書では紹介されていないですが、「様相次元主義」という「可能性・必然性は第五の次元である」というこれまたすごい説もあるそうです。

個人的には、どの立場も全然取りたくないので、困っています。

コメント(2)

# 勝手批評

あけましておめでとうございます。


これは新春から是非取り寄せたい本です。「現代哲学への招待」シリーズはかなり興味をそそる本が目白押しで結構買ってます。でもトマス・ネーゲルの「どこでもないところからの眺め」なんて翻訳されてるんだ。双書現代哲学から出てる「科学と価値」も面白そうだ・・・・ということでお年玉が足りません。

(2010/01/ 3 14:14)
# at-akada

あけましておめでとうございます。
本書は良い本だと思いますよー。

「現代哲学への招待」シリーズはよいですね。
ネーゲルは確か去年の暮れに翻訳がでて、わたしも少し読んだのですが、ちょっと翻訳に問題があって読みにくいです。

(2010/01/ 3 15:12)

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