昨日の記事を書いていてちょっと思いついたこと。
- [1]Kennedy, Chris "Vagueness and Grammar"
http://semantics.uchicago.edu/kennedy/docs/vaguenessandgrammar.html
この文献で、著者は不正確性と曖昧性を区別している。
あまり定義ははっきり述べていないが、「不正確だが曖昧でない」語もあるということ。
例としてあげられているのは(絶対的段階的形容詞と呼ばれているのだが)、dry, transparent, bent, straightなど。
これらは比較の形でも使えるが、肯定形でふつうに使うときは曖昧でない。
1. この棒はbentだ
2. この棒はstraightだ
一番素朴な読みを採用すると、棒がちょっとでも曲ってたら1は真になるし、2は偽になる。
あるいは、
Aの棒はBの棒よりもstraightだ。だからBの棒はstraightじゃない。
こういう推論もそこまでは変じゃない。一方「広い」とか「長い」で同じことをやると変。
(「この棒はあの棒よりも長い。だからあの棒は長くない」って変でしょう)。
しかし日常的にbent, straightを使うときは、もっとズレを許容するような使い方をしている。
つまり「曖昧じゃないけど不正確だよね」ということらしい。
次。分析哲学、特に形而上学方面で人気のある曖昧性についての説明に「超付値による解決」というのがある。
デイヴィド・ルイスが「たくさんだけど、ほとんど一つ」という論文で採用して以降?(歴史はよく知らない)、頻繁に見かける。
ざっくり説明すると、基本的な考え方は、「曖昧な文というのは、語の外延指示が複数考えられ、その内のどの解釈をとるかが曖昧である。言語が曖昧なだけであって、決して世界そのものが曖昧なわけじゃない」というもの。
たとえば「富士山」は境界が曖昧なわけだが、富士山そのものが「曖昧な実体」というわけではない。曖昧な実体などというものはこの世界にはない。そうじゃなくて、「富士山」という語の指示対象が、ある解釈では「この範囲からこの範囲」、また別の解釈では「あの範囲からあの範囲」という風になって、一体どの指示対象について語っているのかが曖昧である。
述語に関しても同様。「山である」という述語は、ある場合には、これこれの対象を含めるし、ある場合にはこれこれの対象を含めるという風に述語に対する外延の割り当てが複数あって、どの解釈を使っているのかが曖昧である。
で、何を思ったかというと、この解決方法って、要するに「曖昧性は不正確性だ」という説明なのかもしれないと思ったのである。
本来は曖昧でない語を、われわれは多少のズレを許容する形で使っているという意味で。
一方、超付値による解決は、段階的形容詞に適用すると、ちょっと変なことになる。
「この棒は長い」の曖昧さという現象に対し、この解決をそのまま採用すると、「長い」という語が、ある場合には「3m以上」を意味し、ある場合には「4m以上」を意味する、そしてどの意味で使っているのかがよくわからないから曖昧なのであるという風になる。でもこれは少し変だ。
「富士山」や「山である」を正確化することはできるし、日常会話で実際にそういうことをすることもある。しかし「長い」を正確化することはまずない。「長い」について、曖昧でない複数の解釈があって、その内のどれを採用するかが不明であるから曖昧なのだという説明には、だいぶ違和感がある。
段階的形容詞以外の名前や述語の場合、曖昧性はキャンセル可能である。しかし段階的形容詞の曖昧性はキャンセルできず、語自体の意味に組み込まれているように思う。
- 富士山、というのは、ここでは、ここからここまでの範囲を指すのだが...
- 山、というのは、ここでは、これこれの対象を指すのだが...
- 長い、というのは、ここでは、2.34m以上のことを指すのだが...
最初の2つは自然だが、最後の1つは結構変だ。
最初の2つは「富士山」や「山」について、少し説明を付け加えているだけのように聞こえるが、最後の1つは「長い」にかわって新しい単語をつくってしまっているように聞こえる。
というわけで段階的形容詞の曖昧性は、他の場合よりも厄介だなあと思ったのだった。
結論や新しいアイデアは特に無いが、このように考えたのでメモしておく。
Vagueness (Problems of Philosophy (Routledge (Firm)).)
以前読んだウィリアムソンの曖昧性についてのサーベイが啓発的だったので、これも読もうと思っていたのである。
あとスタンフォード哲学事典の「曖昧性」の項目も。
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